どうも、ヤスイです。
前回は「コロナ禍の音楽制作|走りながら生んだ33曲」ということで、「なんでライブバンドがライブしないと決断したのか」ということと、その中で生み出した音楽をちょろっと紹介しました。
で今日は何を書きたいかというと、その中で具体的に学んだこと。
僕らはライブバンドとして、スタジオ入って曲作って、ライブする、レコーディングする、ってことしか知らなかった。
それが、メンバーとも顔を合わせずに33曲も世に送り出した。
当然、苦労もあれば、正直、自慢できることもある。
僭越ながらそのへんのことを書いて、もしも同じようなことをしようとしている人とか、今、どう音楽活動すればいいかわからなくなっている人に、なにかヒントになればと思います。
ただし、はっきり言っておくことは、今僕たちが2020年3月とか、5月とかに戻ったとして、同じ決断をするとは限らない。
この7ヶ月の活動は、本当に苦しい部分もあったし、今でも「これで良かったのか」と思っています。
とまあ、その前に余談。「やってもうた」というフルリモートミュージックビデオを見てほしい。
コロナを盛大にディスる問題作

「やってもうた」の作曲者ドウチ氏のかっこいいショット
「やってもうた」という曲は2020年2月にリリースした2nd mini album”Gold Fish Blues”に収録されている曲。
別にコロナがどうとか一切関係ない曲。ざっくりいうと、2nd mini albumのレコーディングが始まる頃、2019年11月に正式加入したBaドウチタツヤの自己紹介的な1曲。
で、元々この曲のミュージックビデオはざっくり想定だけあったんだけど、結局撮れてなくて、気づけばコロナ禍に突入。
「屋外活動を自主的に自粛します。メンバーとも会いません!家から音楽創ります」とか言ってるので、お蔵入りかな、と思ってました。
ところが、それが一転。
きっかけはなんと、2nd mini albumに収録している「宇宙の嘘」のミュージックビデオの撮影をしたとき、監督のアキミチヒラクが、ドウチタツヤのギターをこっそりパクって持って帰るという、関係性によってはただの犯罪行為を犯したこと。
ちなみにそれが、問題監督アキミチヒラクの監督作品「宇宙の嘘」
なかなかかっこいい映像になっているんだけど、その影でまさかクライアントの部屋から機材をパクってるとは夢にも思わない。
「やってもうたのミュージックビデオどうしようなー」とか話をしていたら、その監督アキミチが「この間パクったドウチのギターをギャラということで、撮ったろか」とか言い出して企画がスタート。
ちなみにドウチは言われるまでギターがなくなっていることに気づかなかったらしい。2ヶ月位は経ってたはずなんだけど、多分そもそもいらないギターなんだろう。
とまあそんな感じで、きっかけがネタみたいなもんだから、作品もネタにしてしまおうということで撮った作品がこちら。
盛大にコロナをディスってる。まずは見てほしい。
ご覧の通り、僕らは自粛中だから、各々家で撮影。わざわざグリーンバックを買って、家の中で無理矢理セッティング。
それより見てほしいのは、コロナに対するディス。
コロナをディスってる、と言えば分かると思うけど、まずよくわからん男が暇そうに地球儀を回して、地球にくしゃみを吹きかける。
その場所は、そう、コロナ発祥の地といわれる中国。そして一言。やってもうた。
まあ神様的な存在が、くしゃみで病原体を中国にぶちまけちゃったと。それを慌てて拭き取ったもんだから、世界中に塗り拡げちゃった。パンデミックという。
この記事を書いている今、世界中でコロナによる死者数が150万人に至ろうとしているのになんて不謹慎な、と思うかも知れません。
正直、僕らもこれを見たときはやばいんじゃないかと思った。
でもまあ、僕らは渾身のツアーを中断して、ライブバンドなのに屋外活動を一切しない、メンバーとも会わないという腹を切るような決断をして四苦八苦していたので、このくらいの遊びは許してほしい。
もちろん、これを読んでいるあなたの立場的に、笑って済ませられないかもしれない。
それは理解しています。この作品に賛否両論があって、否のほうが圧倒的に多いし、人を楽しませるよりは傷つける可能性のほうが高いことは認識しているつもり。
それでもやっぱり、この作品がこういう形で世に出たことに、胸を張りたい。
コロナ禍で学んだこと:機材編
とまあ、ここまでは余談です。今日の本題はコロナ禍で「家から届けられる音楽を」という、これまで考えたこともなかった活動にチャレンジしている僕らが、学んだこと。
何をやっていたか、詳しくは前回の記事を読んでほしいと思いますが、大きくは毎週1曲新曲をリリースする「週イチリモートセッション」と、作曲、レコーディング、映像作品、すべてをリモートで仕上げる「フルリモートリリース(そんな企画名を付けた訳ではないが)」について。
まずは機材編。細かいものを上げればキリがないし、僕以外のメンバー(ボーカルのスマイとベースでミックスの一部を担当したドウチ)はもっと色々揃えているかもしれない。
その辺も、いつか彼らが記事を書いてくれるかもしれません。
まず、この7ヶ月、家から一歩も出ずに音楽を創る中で揃えた機材、元々持ってたけどめちゃくちゃ活躍した機材をいくつか紹介。
Kemper様には頭が上がらない
僕は何度かKemperの記事を書いているので、どういうものかはそっちも見てほしいのですが、この7ヶ月ほど、Kemperに感謝する期間は他になかった。
Kemperはめちゃくちゃいい機材だと思ってるけど、ライブとかしてると心の中では「真空管の熱を感じたいなー」とか「ライブ写真、僕の後ろだけピカピカ光ってんのダサいなー」とか思うときがなかったわけではない。

こういうエモい瞬間も、Kemperは遠慮なく光る
しかし、この宅録において、Kemperは最強だと思う。レコーディングスタジオにも置いてあるくらいだし。
素人が宅録してミックス・マスタリングする場合、一般的にはギターの音そのままを録音するらしいです。やっぱり家の中ではギターアンプの性能を引き出して一番いい音で録るなんてできないから、何もいじっていないそのままの音を録って、DAW側で音作りしたほうがいい感じになるらしい。
でも、エンジニアに相談したところ「Kemperならそっちで音つくっていいよ」って。
これはありがたい。自分の出したい音を言葉にしてエンジニアに伝えるなんて、なかなかの難易度。それがこっちで作れるんだからめちゃくちゃ楽です。
ということで、僕はKemperには頭が上がらない。本当にありがとう。
オーディオインターフェースとヘッドフォン、モニタースピーカー
やっぱり宅録で一番重要になるのは、いわゆるレコーディング機材というやつ。代表的なのはオーディオインターフェースとヘッドフォン、モニタースピーカー。もちろん、凝り出せばもっと色々必要なものはあるけど、第一弾として重要なのはこの辺。
オーディオインターフェースはこの期間、迷走した。
僕が使っているのは「YAMAGA AG06」で、これはオーディオインターフェースというより、ウェブキャスティングミキサーという立ち位置で、決してレコーディング向きではない。で、「宅録オーディオインターフェースの選び方」って記事を書くくらい勉強したんだけど、結局この宅録期間は「YAMAGA AG06」を使ってた。
ちなみに、ヘカトンメンバーのオーディオインターフェースは、ボーカルのスマイが「Steinberg UR22C」、ベースのドウチが「SSL 2+」
「SSL 2+」は僕も最近購入。もっと早く買っておけばよかったと思う。
あと、モニタースピーカーとヘッドフォンも、僕は「YAMAHA HS5」と「ゼンハイザー HD599」を持っているので新調してないけど、ベースのドウチはモニタースピーカー「YAMAHA MSP3」を新調したし、ボーカルのスマイはヘッドフォンに「SONY MDR-M1ST」を購入。
もちろん、スマイはボーカル録音用のコンデンサーマイクも買ったし、やっぱりなにかと機材は必要になってくる。
とはいえ、思ったよりは楽に揃った印象。別に何十万円も必要ない。
DAWは互換性重視で
レコーディングするとなると、必要なのがDAW。録音のソフトウェアですね。まあ録音するだけなら、なんでもいいと言えばなんでもいい。MacユーザーならGarageBandでいいし、無料のREAPERってDAWも結構使えるらしい。
ヘカトンはドウチがもともとCubase Proを持っていたこともあって、全員Cubaseを使いました。
Cubaseにこだわりがあったというわけではなく(個人的にはLogic Proが使いたかった)、やっぱり大切なのは互換性。
これは、メンバー間の互換性ももちろんなんだけど、サポートメンバーやエンジニアとの互換性も重要。
なので当然、導入前にエンジニアとも相談。
これは結構重要だと思います。せっかく録った音を、ただのオーディオファイルとして共有するか、ツギハギとかも含めたプロジェクトデータとして共有できるか、試したわけじゃないけど、かなり出来上がりの品質ややり取りのスピード感に影響するんじゃないかな。
僕らはリモートセッションも、リリース曲も、それぞれが録り終わったらCubaseのプロジェクトファイルをギガファイル便にアップロードして、関係者に共有、としてたので非常にスムーズ。
ちなみに、僕とスマイはCubase Proではなく、Cubase AIという無料版に毛が生えたようなモデル。ただ、録音するだけなら十分。
機材に関しては多分こんなもん。思ったより必要なものは少なく済みました。ただこれは、元々ある程度の環境があったのと、サポートメンバー、エンジニアの協力が何より大きかったと思います。
コロナ禍の音楽制作の課題
たぶん、コロナ禍に自粛を公表して行っている僕らの音楽活動は、傍から見れば結構順調だったと思います。週イチでリモートセッションを公開するといって、29週間それを続けましたし、リリースイベントもライブ配信で楽しめたし、何よりミュージックビデオなど作品では、こういうときじゃなきゃ一緒にやらなかっただろう他分野のアーティストとコラボすることができた。
ただ、いくつか課題もあったので、それもシェアしておきます。
頼るべきところはプロに頼る
宅録って、やろうと思えば全部自分でできる。というか、米津玄師みたいなDTM出身者なんか、多分それが当たり前なんだと思います。でも、彼らは多分そういう人種で、僕らみたいなバンドマンとは少し違う。同じようにやろうとすれば、間違いなく壊れる。
なので、頼るべきところはプロに頼る、というのが本当に重要。
例えば、リモートセッション。最初はドラムを自分たちで打ち込んでた。ただ、これはクオリティ的にどうなんだろう、というのもあったし、かなりリソースを圧迫している部分もあったから、ライブでサポートドラムをお願いしていたカワチさんに依頼することに。
それ以降、品質の差は歴然。
例えば、リモートセッションNo.8
これはカワチさんがドラムを叩く前の作品。
そしてその1週間後に公開したリモートセッションNo.09
これはカワチさんに叩いてもらった。
回を重ねるごとに僕ら(特にドウチのミックス)はレベルアップしているんだろうけど、この2曲の品質の差はカワチさんのドラムによる部分が大きい。
やっぱりプロに頼むって、大事。
あと、リモートセッションは自分たちでミックスまでやってたけど、リリース曲は1st mini albumを担当してくれたSENAにお願いした。
ここでも、自分たちが提出した音源と、出来上がった作品との違いに驚く。
やっぱり、プロはプロたる理由がある。
ゲシュタルト崩壊との戦い
これは宅録やるまで思ってもみなかった苦労。宅録って、自分の音をちゃんと聴いて、スタジオの予約時間とか気にせず弾けるから、レコーディング自体はある程度楽になると思ってた。
が、とんでもない。
家で一人でやってると、完成が見えなくなってくる。
例えば、レコーディングで弾いて、OKテイクかなと思って、ドラムベースと合わせて聴くとやっぱりOKテイク。一応、ギター単体でも聴くかと思って、他の音を消して今録ったギターの音だけを聴く。念の為、スピーカーとヘッドフォン、両方で聴く。
するとなんか気になる部分が見つかってしまう。しかも波形を細かく聴いてしまうもんだから、自分でも気づかないちょっとしたリズムのヨレが気になったりする。全体で聴いたら絶対に聴こえないコードチェンジのノイズとかが、気になってしまう。
これは本当に恐ろしいことで、やればやるほど沼にハマる。
今だから告白しても良いかもしれないけど、この期間にリリースしたある曲で、僕が弾いたテイク数は400を超えてる。
普通のレコーディングでそんなにテイクを重ねることはないんだけど、時間の許す限りやってしまうから、丸2日、テイクを重ね続けた。
ただそんなにやっても、本当に400回目のテイクが過去最高のものかなんてもう判断できない。
自分の頭の中でゲシュタルト崩壊を起こしていて、波形を拡大しまくって「ちょっとズレてる。。。」とか言い出す始末。
これは注意しないと沼だから、もしこれからはじめて宅録するって人が読んでるなら、一言言っときたい。
波形を拡大して見るな。
コミュニケーションは課題だらけ
これは仕事でも感じてる人が多いと思いますが、リモートでなにかを作り上げるって、大変。何が大変って、会って話せば5分で終わることが、LINEのメッセージだと何時間もかかったりする。電話やZoomでも、なかなかリアルに話すのと同じようにはいかない。
しかも、音楽なんだからなおさら。
「このフレーズでいいかー」って投げて、2時間後に「もうちょっとこうして」って返ってきたときのウザさ。こっちはもうそのフレーズで行く気になってんねん、と。
スタジオだったら弾いた5秒後にはフィードバックがあるけど、それがない。フレーズを投げて、こっちは返事があるまで、そのフレーズをレコーディングでバチッと弾くために練習しまくってるわけだ。その状態で「他になんかない?」とか。
リモートでの音楽制作は慣れたらスムーズかもしれないけど、スタジオ制作に慣れている人間からすると、かなり苦しい。
例えば、フレーズ一つにしても、フレーズそのものだけじゃなくて、音も重要じゃないですか。かっこいいフレーズも安っぽい音で鳴ってたら安っぽく感じる。
「こんなフレーズどうよ」って、ギターの生音をiPhoneのボイスメモで録音したやつとか、鼻歌とか、そんなのが飛び交うわけです。それらを、かっこいいエレキギターの音で、曲の中に組み込まれたときにどうなるかを判断しないといけない。そりゃ大変です。
ということで、リモートでの音楽制作はかなりの確率でメンバーの仲が悪くなります。注意しましょう。
リモートだからできる音楽があることも確か
今回もつらつら、何も考えずに書いてたら結構な文字数になった。2時間も経ってないけど、何も考えずに書いてるから7000文字くらいになってる。
ということで、これくらいにしておきましょう。
今回は、リモートで音楽を続けていくことに対して、必要な機材とか、課題とかを簡単に書きました。
前回の記事と合わせて、伝えたいことは2つ。
一つは、なにはともあれ新しいことにチャレンジするのは楽しいってこと。
リモートセッションで生まれた曲なんか、リモートセッションっていうスタイルの企画じゃなければ絶対に生まれてこなかっただろうなって思うし、宅録だからこそ凝った部分、宅録だからこそチャレンジできたことってのは確かにある。
もう一つは、どんな状況でも、音楽を続けることに意味があるということ。
音楽を続けるって本当に難しい。新しく設立した会社の90%は5年以内に廃業している、みたいな話があるけど、バンドも似たようなもので、5年以上続けているバンドって案外少ない。
やっぱり、方向性とか、金銭面とか、いろんな問題で、続けられなくなる。
まして、コロナみたいな想定外かつ未経験の事態が訪れたら、余計にね。たぶんこの1年で、たくさんの音楽が消えていったと思う。もちろん、その代わりに生まれた音楽もたくさんあるけど。
どんな状況であれ、苦しくても、不本意でも、不満があっても、とにかく音楽を続ける。
売れるとか、音楽で何かを変えるとか、そういうのも大事だけど、ただ続けるってのもすごく価値があって、めちゃくちゃ難しいこと。
そんなコトを学んだ2020年でした。
ということで、2021年のヘカトンケイル・シスターズをどうぞよろしく。